よってたかって恋ですか?


     5 (後編)



九月中までのは迷走しまくり、
スタミナのある“夏台風”ぽい代物で。
本来は 今時分こそが本番の台風だというに、
あれれ遅い襲来だなぁとついつい感じられたのも、
今年の残暑の短さと、秋めきの随分な早さのせいだろう。
そんな受け取りようになってしまったものの、
結果、結構な勢力だった台風が駆け抜けてから
日本のお空へやって来たのが 三年振りの皆既月食。
ほぼ満月なのが欠けながらどんどんと移動し、
天穹を昇ってゆくその軌道ごと見守りたいと思えば、
お隣の屋根に邪魔されぬ、窓枠の狭さに歯軋りしない、
頭上が開けている場所に出なければということで。
これまた町内会が主催しての観測会があったのへ参加したお二人が、
集合場所だったオニ公園へ出掛けると、

 「わあ、結構な人出だね。」
 「うんvv」

今回は いつどこを翔けるか判らない流れ星ではないその上、
割と早い時間帯、七時半から始まるとあって、
親に連れられてか、小学生くらいの子供らも結構出て来ておいで。
本格的な天体望遠鏡を持ち出して設置し、
東のほうの空を指差し合ってるグループもあれば、
オペラグラスを目許にあてがい、
既に昇り始めているクリアな望月を“わあvv”と観上げている子らもいて。

 「満月の明るさに、星のほうは負けがちなんですが。」

それでもこの時期なら、秋の四辺形が観られるよと、
やあと声を掛けていただいた、例の星のおじさまからは、
他の知己へも配っておいでか、
結構しっかりしたボール紙の円盤状の秋の星座表をいただいて。
それによれば、
今時分だと ペガサス座の胴体部分の長四角が特徴的だそうで、
その一角でもあるのがアンドロメダ座。
そこから展開してゆくのが、カシオペア座にくじら座とケフェウス座で、

 「あ、それってペルセウスのゴルゴン退治伝説ですよね。」
 「そうそう。」

ペルセウスというのはギリシャ神話に出てくる英雄で、
ヘラクラスと並んで武勇伝が多数あり、
特に、顔を見れば石になるという
髪の代わりに蛇のうごめく頭をした女怪、
ゴルゴン三姉妹の三女・メドゥサを倒した。
その帰り道で立ち寄ったエチオピアの海岸では、
海神の娘を愚弄した母の罪を負い、
海岸に鎖でつながれて生け贄にされかけていたアンドロメダ王女を
切り落として持ち帰る途中だった女怪の首で救ったお話が特に有名。
そのお話の登場人物たちをなぞらえた星座が集まってもいるのが秋の夜空で、
ケフェウスというのはカシオペアの夫でエチオピアの王のこと。

 「後はうお座と顕微鏡座に、彫刻室座というのも有名だよ?」
 「…彫刻室?」

まだその辺りには星座が記録されてはなかった空域に星々を発見した人が、
自分のアトリエのようなとその星々を結んだそうで。
実際の星を見てその形を想起するのはなかなか無理があると、
どのサイトでも記されていましたが。(う〜ん)
微妙な蘊蓄を教えていただき、
凄いと感心しているイエスの素直さへくつくつと微笑った、
そちらはもっと渋めの口髭がお似合いなおじさま、
素敵なおまけも教えてくださった。

 「20日を過ぎれば、オリオン座流星群が観られるよ。」
 「わあvv」

一通りを教わってから、
そちら様にもお連れさんがいらしたので それでは…とお別れして。
やはり貸し出してもらえたオペラグラスで、時々 東のお空を観ぃ観ぃ、
じっとしていられそうな空隙を、今回はシーソーに見つけて、
本来だと天秤棒のようになった左右の両端に腰掛けて、
順番こに上がったり降りたりする遊具のその片や側へ
並んで腰を下ろした二人であり。
これも秋の空の恩恵か、輪郭もくっきりとクリアな満月は、
ウサギとされるグレーの陰模様もよく見えたし、
何より本体自身が真珠色に輝いていてそれはきれい。

 「今年はお月様を観る機会が多いねぇ。」
 「そういえばそうだねvv」

スーパームーンと呼ばれる やや大きめの満月が、
今年は3回もあったそうで。
そのたびごとに話題になったから、
月見の満月とは別に、それもわざわざ観上げた彼らであり。
夜気にさらされた頬や耳といった肌へ、
じかに触れる夜風は ひやりとすべらかで。
一応はと、ジャージではなく、
押し入れダンスの奥から引っ張り出した、
時期的には早いめのジャケットを重ね着して来たのだが。
それでも 長い髪を流した肩を ふるると震わせたイエスだったので。

 「寒いかい?」

こそりとブッダが訊いて、その身を心持ち寄せてやれば。
思わぬ運びに おおうと背条を延ばし、
お顔を上げてから、やや含羞みながらも

 「大丈夫vv」

心配しないでと ふわりと頬笑んで見せて。
そのくせ、そのままブッダの肩先へ自分からも肩の頭をくっつけると、
おやと目を見張った伴侶様に、嬉しそうな顔を隠しもせずにご披露し、

 「こんな開けたところで身を寄せ合っても良いなんて、
  寒いのもありがたいことだよねぇ。」

 「な…。///////」

言うに事欠いて、そんなことで喜んでますというの、
それはそれは正直に口にする衒いのなさよ。
そこまでは意識していなかった如来様、一気に かぁと赤くなったが、

 「お。」
 「わあ、あれ…。」

どうやら目に見えて月が欠け始めたらしく、
周囲のあちこちからそんなざわめきが伝わってくる。
結構な人が集まっているが、皆して視線も注意もお空に向いてて、
なればこそ、ちょっぴり大胆にくっついてても 見る人なんていやしないと。
素直ならではな直截な行動を起こしたイエスとは裏腹、
そこまで一応考えてしまったブッダ様。
そこはそれ、聡明ならではで
くるんと素早く様々な機知が回るからこそでもあるのだが、

 “…うん。私、色々なところで
  実はイエスよりも ずんと小っさいのかも知れないな。”

そういうシーズンでもあるのだろ、
猫の奏でる睦みのお声がどこか遠くから聞こえる中。
おおらかな恋人さんの無邪気さへ、
ありがたいなぁ温かいなぁと思いつつ。
それに引き換え 私は…なんてこと、
ついつい思ってしまう困った気性も相変わらずで。
人生いつだって武者修行でしょうか、ブッダ様。
勤勉誠実なのもいいですが、
愛するお人の傍にいるときくらい、
すっかりと羽目を外せばいんですよ?
そうそう、そうやって触れ合う温みとか、
近いからこそ届く匂いとかを堪能して、
時々お互いをこそりと盗み見る間合いがかち合って、
ばっちり目が合ったのへ 照れ笑いとかしちゃったり。
寒いんだものと開き直って、その実、体の陰でこっそりと、
周囲には人が大勢いるってのに、手なんか繋ぎ合ったりもして。

 わあ、もうあんなに欠けちゃったね。

 うん…、そうだねぇ。///////

 欠けたところも、
 うっすら陰になって見えてはいるんだねぇ。

 そうみたいだねぇ。//////

月の満ち欠け、一応は意識の隅においてたけれど。
夜寒の中で感じる、大好きな人の存在感の頼もしさとか、
身を寄せ合っているからか、
肌へとじかに響いて来る、低められたいい声音だとか。
螺髪がうっかり解けやせぬか、時折心配になっちゃったほどに、
周囲へは 怪訝に思われやせぬかと、ややもすればハラハラドキドキしつつ、
でもでも寄り添う恋人さん自身へは、それ以上はなく うっとりしつつの
ブッダ様にはなかなかに雰囲気のあった、皆既月食見物となったようで。

 「? ブッダ、眠いの?」

どこかとろんとした表情でいたからか、
そも あんまり宵っ張りではなかったこと、
今になって思い出したらしいイエスから そんな風に案じられ、

 「…ううん。/////」

ありゃま、そんなにまで腑抜けなお顔をさらしていたかと、
そこへも照れ臭くなった如来様。
凭れていたイエスの肩口から身を浮かしかけたところが、

 「…あ。」

周囲から次々にかすかな声が上がったのは、
今ちょうど月がすっかりと地球の陰に没したからで。
これ以上はなくのこと、皆が空を見上げた間合い、
ブッダ自身もさすがにハッとし、そのお顔を上げかけたのだけれど。
そんな彼をやや引き留めるように、
浮かしかかった肩を 元のところまで引き戻した誰か様。

 “…え?////////”

やや驚いたように見張られた深瑠璃の双眸には、
地球の落とす陰に呑まれたはずの月が潤んでて。
それを深々と覗き込みたいような
玻璃色の双眸が近づいて来るのへ気づくと、
もはやもうもう 疑問も抵抗も沸くはずもなくて。
柔らかな、それでいてしっとりとした熱が触れた唇が、
ゆるりと喰まれる感触に甘く痺れてしまい。

 「……もう。///////」

このまま螺髪が解けたら、
キミだって誤魔化すのにおおわらわになるんだよと、
そんな意を含ませた、でもでも非難にしては蜜色の眼差しで、
随分と大胆な悪戯をした恋人さんへ、メッと叱って見せつつ、
そのお顔をすぐさま、相手の懐ろへや〜んと伏せちゃった
如来様だったようでございます。


  …月はいいんでしょうか、ブッダ様。(苦笑)






  お題 3 『懐ろに頬ずり』






BACK/NEXT


  *含羞みが含羞みを呼んでしまうラブラブっぷりは相変わらずで、
   そういうのって“無限ループ”とも言うのでは?と、
   教えてくださったHさん、ありがとうございますvv(笑)
   でもでも、肝心な“突発事”へまで、
   実は辿り着けませんでした、すいません。
   そちらは、次の章にて…。

   あと、双眼鏡を貸して下さったおじさまというのは、
   こと座流星群のお話をしてくれたという格好で
   『恋でも愛でも理由なんてあとからで』の
    “恋を形にしてみれば”で出ておいでです。
   結構アカデミックなことででも
   お友達をふやしておいでな最聖だということでvv

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

拍手レスもこちらvv


戻る